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大野地球科学研究会は化石やお天気または星が好きな仲間が造った同好会です。

SINCE:  2001年1月1日

UPDATE: 2016年10月8日


 第5章 杉の倒木と折損木について  脇本正則


「今年の雪はいつもの年の雪とは違う」とよく言われました。まず降った量が多かったこと、そして被害が甚大であったことが人々を驚かせました。 中でも山林の被害は今年ほど話題になった年はありません。越美北線は美山まで除雪不能のため不通になりましたが、 その原因は大量に杉の木が折れて線路上に倒れたためだと聞いて、 びっくりしたものです。それ以来、この杉の木が折れたことについて非常に興味を持ち、 なぜあんなにも折れたのかその原因について考えてみた。

 ひとくちに言えば、一度に大量の雪が降ったので木が折れた。と言えるわけであるが、その降り方や降った雪の性質が今までと違うために木が折れたのか、 杉の木の性質や植林の方法等が原因で大量に折れたのかなど原因を考えると原因の大小は別にしてきわめて多くの原因が考えられ複雑です。 そこでまず今回の雪の降り方や性質について調査してみた。
 まず、杉の木の折れ具合はいろいろあるが、一番目につくのは幹の上部から中間あたりまで裂けるようにして折れていることである。 杉の木は組織が縦に柔軟になっているうえ植林してある杉の木は上部に枝葉が集中しているため、 そこに雪が付着して重くなり垂れ下がるようにしわって限界に達した時に組織が破壊し始め、上のほうから下のほうに向けて裂けるようにして折れたように見える。


          杉の木が裂けるようにして
          上部が折れた写真
                福井市天神付近
                S56.1.15

 落葉樹の場合は枝に幹まで折れるほど大量に雪は積もりません。常緑樹の松の木もいくらかは折れているが、 松の木は組織が固い構造になっているため折れ口が杉の木とは違っている。

 杉の木は県内全域に分布しているので杉の木を折るような雪が降った範囲は折れた杉の分布状態を調べればわかるはずである。 折れた木の分布と言っても1本1本数えられませんし、折れた木の数の割合ごとに細かく分類しようにも主観が入って不正確になるので、 美山町内の山林に見られる「著しい折損」を基準に県内各地で「著しく折れている個所」の分布を調べてみた。
 なぜ木が折れたのかを木の性質面から見るのではなく、木を折るような雪が、どのように降ったのか雪の性質面から考えてみたので 「著しく折れている個所」の分布を調べれば足りるはずである。



               松の木の折れ口の
               接近写真









 著しく折れた個所の
 遠影写真
    足羽郡美山町下新橋
    S56.4.

 私たちは、山あいをくまなく踏査することはできなかったが、時間の許す限り美山町、勝山市、大野市、福井市、和泉村など回ってみた。 その結果、雪の少なかった美浜町や小浜市、越前海岸地方は全く折れておらず、昭和38年以上の豪雪だった敦賀地方でも美山町のように著しくは折れていなかった。 嶺北地方でも、今庄、南条、武生、勝山、大野、和泉村、丸岡、金津、松岡、永平寺、上志比や丹生郡一帯では、ごく狭い部分に著しく折れた箇所が見られたが、 全体的に著しさはなかった。そして著しく折れている個所は、美山町を中心に福井市、鯖江市、今立郡の美山町に接した地域であった。

 大半の木は年末の降雪(S56.12.26〜12.30)の時に折れた、と報道されている。では、年末の寒波襲来の状況を見てみよう。 グラフ[1]は寒波の強さのめやすとなることで有名な輪島上空の高層気温グラフで、上空700mb(ミリバール)と500mbの層の気温変化を示したグラフである。

 昭和55年12月26日から急に気温が下がり、28日には上空500mb層では−40.7℃まで下がっている。 上空700mb層の気温変化と上級500mb層の気温変化が同様の変化状況を示しているので、局地的な冷却現象ではなく寒気が流れ込んだために日本列島上空がすっぽり 寒気団におおわれたことがわかる。この寒気団の流れ込んだ地上の気温変化が福井県下ではどのようになっているのかをみると、グラフ[2-1]〜[2-3]のように、 やはり寒気流入を裏付けている。(ここで地上は上空よりも1日遅れて低温のピークを示しているのは、上空の空気の方が下方よりも先にとどくためであるのと、 福井県と輪島は距離があることも関係している。)
 また、グラフ[2-3]の中の敦賀、美浜、小浜の嶺南地方は1日の気温変化のリズムが壊れていないので、寒気流入の影響は対してなかったように見受けられる。

 グラフ[3]は県内各地の降雪状況を表したものである。年末の降雪は嶺北部に限られていることがわかる。当日9時から翌日9時までに降った新設量を見ると、 12月28日に大野で115p、勝山で100p、美山で80p、福井で67pと記録的な降り方だったことを示している。 これを降雪量に直してみると大野の115pはもちろん美山の66pでも洪水に等しい量である。
 次に「木が折れたのは重い雪が降ったからだ」とよく言われたが、このことについて見てみたい。降った雪を溶かして図った降水量の値も大きければ、 非常に湿った雪が降ったということが推測できる。しかし、今回は雪の密度の観測データがないので、一応目安にするために降水量を新雪量で割った値をおよその密度と考えた。 (これをα値と仮称する。)・・(幸い対象とする降雪期に雨が降らなかったのでこの値を信頼したい。)
各地のα値を比較してみた。表1がそれである。しかしここで再度断っておくが、 α値はあくまで雪の性質を各地点で比較する意味で用いたものであってその雪の絶対的な性質を示すものではないと思う。

                   表1 α値の比較表
観測地名/日 12月26日 12月27日 12月28日 12月29日 12月30日
福 井 0.38 0.12 0.14 0.21 0.53
美 山 0.20 0.08 0.08 0.04 0.35
勝 山 0.14 0.10 0.08 0.02 0.26
大 野 0.10 0.09 0.10 0.09 0.38
敦 賀 0.04 1.40 0.20 0.08 0.28
三 国 1.70 0.23 0.06 0.33 0.20
                             降雪量(mm)
                  α = ――――――――――――――――――――――
                      新雪の深さ 当日9時〜翌日9時(cm)×10

 また、このα値は新雪量が小さいと非常に変動する。三国、敦賀の値の変化が極端なのはそのためである。 福井、勝山、大野は十分な新雪量がありα値の値の変化は雪の性質の変化を忠実に示していると考えられる。そこで以後においては、敦賀、三国については対象から省いた。 また、雪の降り始めと終わりは、比較的水分の多い雪が降るので、福井、美山、勝山、大野の12月26日と12月30日のα値は大きいことがわかりますし、 グラフ[3]にも現れているように新雪量も少ないのでこれも省いた。そこで、福井、美山、勝山、大野の12月27日から29日までの値(太枠内)について見ていただこう。
 α値が福井では平均して高く、それも徐々に高くなっている。美山では福井よりも値が小さく、27日、28日は0.08であるが、29日には0.04に変化している。 勝山も福井に比べて値が小さく、29日には0.02にまで下がっている。大野はやはり福井に比べて平均して小さいが、美山、勝山のように29日の値は小さくない。
 以上のように福井、美山、勝山、大野の12月27日から29日の間のα値がそれぞれ特徴をもって変化している。私はこの変化の特徴が木を折らせた大きな原因を解く鍵ではないかと考えた。

 ふつう、雪か降ると樹木に雪が付着するが、ある一定量付着すると、それ自身の重みで落ちてしまう。 深々と夜通し雪が降り続いた次の朝、木を見ると重たそうに雪を乗せて頭を下げていても気温が上昇してくるにつれて付着力が弱まり、 それ自身の重みで落ちるのを見たことはだれにでもあるはずです。これは雪の水分の多少とその変化(つまりα値の高低とその変化)によって雪の付着の状態が変わるためと考えられます。 すなわち、気温の変化と雪の水分の変化が相互に関連しあっているといえます。

 各地共に雪の降り始めから28日ごろまでは水分の多い重い雪が降っていたが、徐々に気温が下がり、氷点下にまでなって木の上に降り積もった雪が凍みて固まり木から落ちず、 そのうえ日中でも気温が上がらず従って凍みた雪が緩まないで木の頭に雪の塊を乗せたままの状態でどんどん雪が積もった。そのあまりにもたくさん重く積もりすぎ、 限界を越して木が折れたと思われる。ただ、12月29日の勝山では雪が非常に軽くてサラサラした雪のため積もりにくく、木が折れるまでの重さには積もらず、 その後気温が上昇して雪が緩み木から落ちてしまったと考えられる。

 また、昭和38年の大野祖の豪雪の記録があるので、その時の雪の降り方と今回とを比較してみた。グラフ[4]がそれである。降雪がピークの新設量は昨年の方が38年を上回ってりることが分かる。 ちなみにα値も計算しますと、38年の0.05(昭和38年1月24日の新雪量)に対して昨年は0.10(昭和55年12月28日の新雪量)となり、今回の方がはるかに重い雪であったことが分かる。 そして38年の豪雪の時には今回のような著しく杉の木が折れたことを聞いていない。

 以上、美山を中心に福井、鯖江、今立の杉の木を著しく折った雪とはどのようなものかについて考えてみた。少ない資料で結論を出すのは多少無理だと思うが、 私は重い雪が短期間に大量に降ったこと、気温低下とともに継続的に雪が降り続いたこと、そしてその雪が適度に水分を含んでいたために樹木に付着しやすかったこと、が大きな原因とみた。
 なぜそのような雪が美山を中心にその近辺地域に限って降ったのかについては美山の気温や風の観測資料が無いこと、 当時雪雲が県下上空にそのように配列していたかについてなどの資料が不足しており、今後の研究課題となった。

(注)本校において使用した資料は主に福井地方気象台発行の気象月報を引用したほか同気象台収録の資料を引用し、一部については各図中に付記したように大野消防署収録の観測資料を引用した。

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