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大野地球科学研究会は化石やお天気または星が好きな仲間が造った同好会です。

SINCE:  2001年1月1日

UPDATE: 2022年2月17日


はじめに

 福井県大野市の2020年から翌21年にかけての冬は久々に大雪となった。雪国の冬は屋根の雪下ろしが重労働で大仕事であるが、 大雪で積雪量が多くなっても降りしきる最中に行うより降り止んでからの方が効率的と考えながら屋根雪下ろしのタイミングを見計らっていることがある。 まだ早い、もう少し待ってみようと屋根雪下ろしを先送りしていると、そのうち雪の重さに耐えきれずに屋根の軒先が破損してしまうことはよく聞く話である。 新雪が1mあまり積もってもその後の好天で見た目の積雪が減ってくると安心し、雪下ろしの手間が省けて得したような気持になることもある。 でもその後も雪が降って屋根の積雪量が増えてくると、雪質が重くなっているのが分かっていながらも正常性バイアスの心情から屋根雪下ろしのタイミングを見失い、 結局手遅れになって屋根が破損する事態になることもよくある。屋根を守るためにはできるだけ重量負荷を抑えることだが、屋根雪下ろしのタイミングを判断するには、 見た目の積雪量に惑わされことなく積雪状況を的確に見定めていく必要がある。そこで、屋根に残る積雪の深さや重さなどについて実際に観察し考察したので、 その状況について報告する。

屋根の積雪

この年の大野の冬は、12月15日から雪が降り始めて強弱しながら年末・年始まで降雪が続き、正月過ぎに強い寒波が襲来して大雪となった。 1月8日の1日の降雪量は63p、9日は54pと記録的な積雪となり、11日にはその日の最深積雪がこの年最高の166pとなった。 その後は寒波のピークが過ぎて降雪がない日もあり13日の大野市の最深積雪は126pになっていたが、このたびの観察は1月13日に大野市小矢戸の自宅で行った。
 屋根に残っている積雪状況の実態を把握するため雪の降り始めからずっと自然状態にあった屋根雪を観察する必要があったので、 屋根雪下ろしをしていなかったトタン葺き小屋の屋根に残る雪を計測した。屋根の積雪の深さは127p、観測時の気温は1.5℃であった。 この積雪に関して大野の観測記録では、12月15日以降の平均気温は最高でも2.6℃であったが、雪が降る日は平均気温が0℃前後と低くなり、 寒波ピークの1月8日と9日は−3℃台であった。この気温の推移からをみると、13日までに最深積雪の値が減少した要因は、 雪が融けたのでなく雪の自重で締まったことによるものと考えられた。
 なお、12月15日から1月13日までの降水量の合計が475.5o、降雪量の合計が325pであったが、 降水量については雨が降ったものではなく観測した降雪を融かして雨の量に換算した値である。

 次の図はトタン屋根の積雪状況を実際に観察したデータを表したものである。

屋根雪の重さ1

 屋根の積雪の表面から底面までの127pについて観察すると、表面部2pが「ザラメ雪」、その下は「締り雪」で下層にいくほど固く締まっており、 最下層は42pのザラメ雪であり、底面に近いほどザラメ状の氷粒子が密であった。 表面から底面までの積雪を10p×10p×10pのブロックに切り出してブロックごとの重量を計測し、各ブロックの比重を求めた。 なお締り雪と最下層のザラメ雪との境界部分を切り出すにあたり、境界が明確でないうえに境界部分が崩れてしまうため、 位置を変えて上層の締り雪を取り去ってからザラメ雪のブロックを切り出した。
 積雪の各層の温度は、表層部が−1.0℃、締り雪層の中間部が−1.5℃、その下の締り雪とザラメ雪の境界部が−1.0℃、最下層部が−1.0℃であり、 積雪中どの層も温度が0℃以下であった。雪は保温性が高く気温が0℃以上であっても雪中温度は常に0℃以下であることが改めて分かった。 表層部が2pのザラメ雪になっているのは、寒波が緩んで気温が上昇し雪が融けて氷粒子になったものと考えられた。 最下層のザラメ雪は、雪の降り始めころから年明けの強い寒波襲来までの間は建物自体の温度や0℃以上の気温の影響で雪が融けてザラメ状の氷粒子になったものと考えられた。 しかし底面部のザラメ雪は氷粒子が融けて流出したような明瞭な形跡が認められなかった。
 各ブロックの比重を求めたところ、それぞれ表に記載したとおりであったが、平均値は0.285であった。 これら計測した比重の値は、日本雪氷学会の雪の種類ごとのデータに符合するものであった。
 各ブロックの積雪127p分の重量は合計3710gであり、これは1uあたり371kgになる。この積雪については、降り始めからの降雪の合計325p、 降水量換算475.5o、雪の全重量は1uあたり475.5kgという値になる。屋根に残っていた積雪量との差104.5kgは全重量の約78%になる。 この差104.5kgについては、わずかながらにも雪が融けて流出したほか雪が昇華して減少したものと考えられる。 そして全降水量つまり全降雪量の約78%が屋根に留まっていたものと考えられる。つまり屋根には1uあたり371kgという重量負荷がかかっていたことになる。

まとめ

 最近の木造住宅について構造的に積雪3mまで屋根の雪下ろしは不要などとの宣伝文句を目にするが、この数値を安易に捉えてはいけない。 新雪の比重が0.03〜0.15なので新雪の積雪3mの1uあたりの重量は90〜450kgという値になる。 しかし3mも積もれば底面に近づくにつれて締り雪になり、更にザラメ雪という重い雪に変わっていくものであり、 今回観察したような比重0.285という積雪が3mであれば1uあたり855sにもなる。 これでは新雪との差がありすぎて屋根の雪下ろしを判断するのにとまどってしまう。なるほど新雪状態なら雪下ろしの必要がないだろうが、 何日も雪が降り続いて雪が締まり、締り雪やザラメ雪となって積雪量が1mにもなってくると、比重が0.3で1uあたり300kgという重量負荷がかかることにもなる。 積雪の全体が重いザラメ雪になった状態で積雪が60pだったとしても比重は0.3〜0.5であり1uあたり最大300kgという重量負荷になる。 雪中温度が常に0℃以下という積雪内部の環境では多少の雨が降っても雪が融けて流出することはなく層内で比重が大きいザラメ雪に変わっており、 雨量の重量は層内に留まっているわけである。なお、春が近づいて気温が高くなり雨としての降水量が多くなれば融雪が進んで流出することになり、 そうなれば積雪の深さが大きく減少する。
屋根雪の重さ2  屋根の雪下ろしのタイミングを考える場合、家が古くて屋根が劣化しているような場合は誰もが気にかけるが、見かけ以上に重い雪があるので、 積雪の深さだけでなく、降雪量・降水量や気温など雪が積もった状況の実態的なデータを基に屋根の雪下ろしのタイミングを判断すべきである。 また、過去に積雪がある時期に地震に見舞われて屋根の雪の重みで多数の住宅が倒壊した被害が発生したことがあったが、 地震国の日本では地震対策からも屋根の過重負荷を極力小さくしておくように心掛けていなければならない。


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