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大野地球科学研究会は化石やお天気または星が好きな仲間が造った同好会です。

SINCE:  2001年1月1日

UPDATE: 2018年12月9日


30豪雪  雪国の皆さん、今年の冬は大雪で、雪かき作業などでさぞかしお困りだったことでしょう。ご苦労様でした。でも、思い返してみてください。 昔は、冬といえば今年のように雪がたくさん降るのが当たり前ではありませんでしたか。最近は暖冬と言われて雪が少ない年が続いていましたが、 降るときには降るというもので、地球規模で見ると、日本の位置は、特に福井県など北陸地方は自然の摂理にしたがって冬にたくさん雪が 降ることになっているのです。自然の営みは、人の思いどおりに進んでいかないものです。
 地球が自転していることにより、北極を中心として日本の北方高緯度地域の上空10000m付近に強い西風の寒帯前線ジェット気流が 形成されています。日本の緯度付近にも、やはり上空12000メートル付近に亜熱帯ジェット気流が形成されています。不思議なことに、 ジェット気流は地形の影響等により強弱や形の変動があり、3〜5個程度に蛇行しております。この蛇行はだいたい一定地域に留まっていますが、 地球規模の気象変動で東西方向や南北方向にずれていくことがあります。蛇行によって、南側の暖気が極側に流入する地域と、反対に北側の 寒気が南側に流入する地域が生じます。このように暖気と寒気が混合することによって低気圧が発達することになり、北と南の温度差が 縮まるように作用しているのです。また、大局的に見れば、蛇行が南から北に向かう蛇行の内側地域には高気圧が、北から南に向かう蛇行の 内側地域には低気圧ができます。夏のオホーツク海高気圧や太平洋高気圧、冬のシベリア高気圧のように留まっていて動かない ブロッキング高気圧とよばれる高気圧がありますが、これはジェット気流の蛇行の影響によって形成されるのです。
 冬季の日本付近は、寒帯前線ジェット気流が東シベリアから南下して千島付近からベーリング海で北上するというように蛇行しており、 シベリア高気圧から寒気が吹き出してきます。そして日本海の暖流により多量の水蒸気を供給されて雪を降らせる積雲が形成されます。 水蒸気を供給されると空気中の水蒸気が飽和状態になり雲ができますが、この時、潜熱を放出して空気を温めるので暖気となり、 暖気は軽いので寒気の上へと上昇し、上昇しつつも水蒸気が下からどんどん補給されるのでますます上昇していき、 雲はどんどん発達していくわけです。これが積雲であり、日本海側地域に達するころには十分に積雲が発達して雪を降らせるわけです。
 夏季に雨を降らせるのは積乱雲といって上空10000mもの背丈に発達する雲ですが、冬季の積雲は積乱雲にまで発達することはあまりなく、 日本付近で雪を降らせる状態でも通常の積雲の雲頂高度は3000m程度です。上空の西風が強いため東に流されて上へは伸びられないのです。 しかし、強い寒気が流入すると積雲の発達が急激になり雲頂高度が5000mを超えて積乱雲となり雷が鳴ることがあり、 積乱雲や積雲の組織的な集団が押し寄せることとなって大雪となるわけです。ちなみに、夏季の雨は、まず上空で雪が発生して結晶が大きく成長し、 これが落下してくる途中で融けて雨になって地表に落ちてくるという現象であって、雨も雪も発生状況は同じ降水現象なのです。
 冬季の雪は、2000m付近から落下し始めて秒速50pで落下すると、地表に達するまでに4000秒、1時間以上もの時間をかけて地表に到達するわけですから、 日本付近で雪を降らせる状態でも通常の積雲の雲頂高度は3000m程度です。上空の西風が強いため東に流されて上へは伸びられないのです。 風速10mの西風に流されていることを考えると、福井や大野で見る雪は、落下地点の西方40qの日本海上空で発生した雪が飛来してくるものなのです。
 さて、今年は56豪雪以来37年ぶりの大雪ということでしたが、記録を調べてみると、福井市の最深積雪は56豪雪が196p、今年が147p、 大野市の最深積雪は56豪雪が262p、今年が169pでした。
 ここで、積雪、降雪量、降水量について説明しておきます。積雪とは、観測地点での地面から積雪表面までの高さを計測した値で、 ふわふわ雪でも締まった雪でもその性質の違いを問いません。降雪量は、1時間当たりの積雪の値を1日分あるいは指定の期間分を合計した値です。 ですから同じ積雪でも、ふわふわ雪より締まり雪の方が降雪量の値が大きくなり、積雪全体の重量も重く、降雪量で積雪の性質の違いを比べることができます。 降水量は、雪を融かして雨の量に換算して計測した値であり、降った雪が解けずに残っている状態を比べた場合、 降水量を比較すれば積もっている雪の重さの比較ができるというわけです。
 今年の大雪について、雪の降り方に強弱がありましたが1月10日から2月14日までの間について調べてみると、福井市の総降雪量は348p、 総降水量は505o、大野市の総降雪量は522p、総降水量は412.5oでした。福井市の降水量が大野市より多いのは、今年の雪の降り方が、 いわゆる里雪型といって平野部で多く降るという現象が強く表れたことが影響しています。でも福井市と大野市の降雪状況の違いを比べてみるのですが、 福井市では地表付近の気温が大野市より高いことから雪ではなく雨となって降ることがあり、雨が雪を融かして積雪を減らしていることから、 最深積雪の値で福井市と大野市の積雪の性質の違いを正しく表現できません。とはいっても、雨に換算して約1か月に505oもの降水があったわけで、 しかも一時期に集中して降ったこともあったのですから、大変な大雪だったことに違いありません。
30豪雪 30豪雪
 ちなみに56豪雪の記録を調べてみると(12月26日〜1月24日)、福井市の総降雪量が495p、大野市の総降雪量が569pでした (降水量については観測エラーがあり比較不能)。
 豪雪になる要素の最も大きな要因は、南下する寒気の強さです。最近では気象データが豊富で日本付近の地表はもとより世界中、 地表から高層に至るまで幅広くデータが入手できるので、気象現象の解析にはとても便利です。そこで大雪の目安とされている850hPa温度のデータを調べてみると、 まさに寒気の強さが読み取れました。850hPaは高度約1500m前後の層を指しますが、この気圧面の気温の変化を見るのです。厳寒期の地表の気温は数℃、 850hPa面で−10℃前後が平均的ですが、今年の大雪の寒気南下前は温かく850hPa面で−数℃あり、寒気が入ってくると気温が一気に下がり、 寒気のピーク時には20℃も下がり−24℃になっていました。もちろん500hPa面(約5500m層)では−40℃以下という寒気でした。
 寒気はシベリアの平原の高気圧帯から流出してくるものですが、放射冷却で極度に冷えて冷気が地表に蓄積して形成される高気圧であるため、 夏季の高気圧の背が高いのに比べて背の低い高気圧であり、そこから流出する寒気は地表近くの低層を流れてきます。
 豪雪は、ジェット気流の影響を受けますが、このように下層を流れてくるというところに豪雪現象の特性があります。寒気吹き出しは、 大陸の長白山脈(最高点は白頭山の標高2744m)より低い層を流れるため山脈を越えられず、山脈で2方向に分かれ日本海西部で再び合流して日本海寒帯気団収束帯: JPCZを形成し、これが日本海側陸地に達する地域で大雪を降らせるという気圧配置の型ができる現象のときに豪雪になります。 また、JPCZでは対流現象が激しく積雲が発達して組織化し、その流れは陸地に近づくにつれ北西から西に向きが変わる特徴があり、 陸地に達する頃にはJPCZの積雲が十分に大規模に発達しているため平野部で大雪を降らせることになるのです。 そしてジェット気流の蛇行が寒気吹き出しの型のまま留まっていることから、JPCZが形成される気圧配置が1週間程度も継続するため雪が降り続くことになるわけです。 このように平野部で多量の降雪となる現象が里雪型と言われるのですが、56豪雪の時も里雪型であり今年も里雪型だったのです。
 なお一般的な寒気吹き出しによる降雪は、北西の季節風が日本海の暖流により水蒸気の補給を受けて積雲が徐々に発達しながら日本海側陸地にやってくるのですが、 平野部から山岳地に変わる地点で上昇気流が強まって積雲の発達が促されます。ですから、平野部では積雲が発達途上段階であって平野部での降雪は少ないのです。 その反対に、山沿い、山間部では積雲が十分に発達している状況なので降雪が多くなり、そのため山雪型と言われるのです。
 温暖化が進んでいるとか暖冬が続いていると言われており、なるほどここ最近降雪量が少なくなっているかのように感じられます。 しかし、雪が降る現象を地球規模で見た場合、ジェット気流はいつも同じ状態ではなく常に変動しており、 その位置や規模が少し変わるだけで大雪を降らせる積雲の大規模な発達現象の場も移動するのです。 大気現象は極めて様々な要因で自然の摂理にしたがって変動しているのですから、自然の摂理という観点で見れば、 ジェット気流の蛇行変動については現在の科学力では予測不可能です。ですから私たちは、自然の摂理を正しく理解して、 自然にしたがい自然を謙虚に受け入れるしかないものと思います。つまり、福井県では冬に雪が降るのは自然であり、 時には豪雪になることもあり得るのですから、過去に経験した程度の豪雪を念頭においてその備えを怠らないように心掛けるべきでしょう。 今年の大雪を振り返って今一度生活のありようを考えたいです。
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