今年もあちこちで集中豪雨による土砂崩れや浸水被害が発生して多くの人命が奪われた。昔からこんなに大雨の被害が多かっただろうか、
こんなにすごい被害が起きていただろうか、何かしら雨の振り方が激しく変化してきているのではないだろうかと、
雨について考えさせられることが多くなった。
雨が降るメカニズム
雨は空から降ってくるが元は大気中に含まれる水蒸気だ。その水蒸気の多くは海水が蒸発して大気中に供給されるものだ。
気体で目に見えない水蒸気が上空の低温域で凝結して雲粒となり雲を作る。雲粒はごく小さく空中に漂っているが、
大きく成長し重くなって空から地表に落下してきたものが雨である。ところで雲は、雲底高度の高さで上層(およそ高度5km以上)、
中層(およそ2〜7km)、下層(およそ2km以下)の雲に分類される。そして、上層雲は、巻雲、巻層雲、巻積雲、中層雲は、高層雲、
乱層雲、高積雲、下層雲は、積雲、積乱雲、層積雲、層雲とそれぞれ分類されている(10種雲形)。
ごく小さい氷の粒でできている巻雲は地表に雨を降らせることはできない。巻雲域に水蒸気が供給されて氷の粒が成長すれば重くなって
落下し始めるが、氷の粒であってもこれを降水現象という(上層での落下速度を観測できないが、計算ではせいぜい30p/sくらいと遅い。)。
巻雲の濃い部分から刷毛で掃いたように見える筋を引いたような雲の形は降水現象である。でも降下すれば温度が上がり融けて蒸発し、
あるいは昇華して途中で消えてしまう。雨は降水が地表に達する現象を言うが、雨を降らせるのは主に一般に雨雲といわれる乱層雲である。
層積雲からも粒の小さい弱い雨が降ることがあり、層雲からも霧のような雨が降ることがある。激しい雨を降らせる典型は積乱雲である。
雲粒が成長して雨を降らせるメカニズムの1つは凝結・拡散過程である。大気中の水蒸気が過飽和状態になっても雲粒はできないが、
大気中の浮遊微粒子を核として凝結し微水滴となる。そして微水滴に水蒸気分子が取り込まれ(過飽和状態の水蒸気分子が微水滴に向かって拡散していく)
成長していく。微水滴は上層の氷点下でも凍結しない(不純物を含まない微水滴は−40℃以下になってようやく自発凍結する)が、
浮遊微粒子を核として昇華し氷晶を形成し、微水滴に凍結を促す微粒子や氷晶が入ると直ちに凍結する。
こうして過冷却の微水滴と氷の微粒子の共存状態になると、氷の性質として、微水滴を蒸発させてその水蒸気を氷の微粒子が取り込んで急速に氷の粒子が成長する。
要するに、大気中の浮遊微粒子を核として−25℃あたりで氷の微粒子ができ、氷晶として成長し、大きく成長し重くなって降下する。
そして0℃を超えれば水滴になり、雨となるが、融けないで地表に達するのが雪や霰、あるいは雹である。
微水滴も氷晶も一様に同じ大きさに成長するわけではなく、大小混在状態となる。一定の大きさになると空気の抵抗によって一定の落下速度になるが、
粒がこれより小さい段階では、大きい重いものほど落下速度が速く、落下途中で小さい粒子と衝突・併合し、更に落下速度を速めて併合を繰り返しながら大きく成長する。
これがもう1つのメカニズム併合過程である。
なお、雲粒と雨敵は直径0.2oが境界とされるが、3oの雨滴の落下速度は約7.5m/sである。0.2oの雲粒の落下速度は20p/s程度、更に小さい雲粒は数p/s程度なので、
風の影響などを考えれば落下というより漂うという感覚である。
さて、雨は雲粒が成長したものであるが、水蒸気を含んだ湿潤な空気が熱せられるなどして上昇し、湿潤断熱変化して気温が下がり(100mにつき0.5℃)
過飽和状態になって雲粒となる。このとき潜熱を放出し、乾燥断熱変化により減温する(100mにつき1℃)周囲の乾燥空気より減温率が小さくなり、
周囲の空気より相対的に温度が高いことから浮力を得て更に上昇する。水蒸気が凝結して飽和状態でなくなるまで上昇が続く。
この湿潤断熱変化によって水蒸気を凝結させながら湿潤空気が上昇することによりできるのが対流性の雲である。いわゆる積雲は代表的な対流雲であるが、
小規模な積雲では雨を降らせることはなく、雲がもくもくと上昇して成長した状態の雄大積雲、乱層雲、積乱雲が雨を降らせる雲である。
いわゆる雨がシトシトと降るときの雲というと中層雲の乱層雲である。乱層雲は、雲低が2000m程度と低いが雲頂は数1000mになるけれども対流現象の規模が小さく、
降雨現象としては穏やかである。雨滴が大きいザーザーと強い雨を振らすのは積乱雲であり、地表近く垂れ下がった雲低から空高く盛り上がる対流現象の激しい雲である。
雲頂高度は夏季には10000mを優に超えて雲頂温度は−50℃以下となり、したがって雨滴の元は完全に氷である。氷粒子が成長して降下するが、強い上昇気流のために再び上昇し、
降下と上昇を繰り返すうちにどんどん成長して十分に大きく重くなり、最終的に落下してくる。このとき大きいものは直径1p2pあるいはもっと大きくなる雹であり
(直径5o未満のものは霰)、これが降下とともに気温が上がり融けて雨滴となるが、当然雨滴も大粒であり、冷たい雨である。解けきれずに氷の状態で降ってくるのが雹であり、
記録では10pを超えるものもある。なお、冬季は、対流性の雲からの降水現象が地表に達するまでに解けずに雪や霰の状態のまま降ることが多い。
災害が発生するような大雨としては、1時間雨量が100ミリを超えるというような短時間強雨の現象と強雨が何時間も同じ地域で降り続くという現象の2つのパターンがある。
雨の強さについて気象庁は次のように定義している。
1時間雨量が10ミリ以上20ミリ未満 やや強い雨
20ミリ以上30ミリ未満 強い雨
30ミリ以上50ミリ未満 激しい雨
50ミリ以上80ミリ未満 非常に激しい雨
80ミリ以上 猛烈な雨
激しい降雨
最近では1時間雨量が例えば120ミリという値を聞くことが珍しくはない。でも猛烈な雨の基準値をはるかに超えるすさまじい降り方ではあるが、
日本でも過去には153ミリという極値が観測されており、短時間強雨の程度が強くなったとは言いきれない。
観測態勢の充実によって日本各地の強雨をもらさず観測できるようになったから強雨が増えたように感じるのであろう。
また各地で豪雨災害の発生が増加していると感じるかもしれないが、昔から大雨による大きな災害は各地で記録されている。
ただ、災害の要因が気象現象だけでなく、人の居住環境や生活態様の変化が災害を受けやすくしているとも考えられるから、
豪雨災害の発生状況に関する詳しい分析を待たなければ、大雨という気象現象が増加していると見るのは早計である。
しかし、この種の豪雨災害が頻繁に発生しているのは事実なので、気になる強雨が降るというメカニズムを見てみる。
寒気はシベリアの平原の高気圧帯から流出してくるものですが、放射冷却で極度に冷えて冷気が地表に蓄積して形成される高気圧であるため、
夏季の高気圧の背が高いのに比べて背の低い高気圧であり、そこから流出する寒気は地表近くの低層を流れてきます。
強雨をもたらすのは積乱雲である。夏季に地表の気塊が加熱され、上昇して積乱雲となり夕立が降ることがよくあるが、
積乱雲の発生から消滅までは30分から1時間程度のサイクルである。激しい降水による下降気流のため上昇気流が弱まり、
その積乱雲の規模による降雨を終えると、積乱雲は衰弱して消滅する。しかし、下層で一定方向に風が吹いている状況で、風の収束により上昇流ができ、
多量の水蒸気が継続して供給されるような条件がそろった場合、1つの積乱雲が衰弱しても次々と同じ領域で積乱雲が発生するので、
全体として大きな積乱雲の団塊になり、これが何時間も持続する現象がしばしば見られる。いわゆる「線状降水帯」である。
気流が陸地の山岳斜面に当たると気圧の低い上方に向けて流れが変わり上昇する。方向が異なる気流が合流する状況を「収束」というが、
下層の収束場でも同様にして上昇流が生じる。梅雨前線が停滞しているときは、北の寒気が北東側から、南の湿潤暖気が南西側から流入して収束場を形成しており、
ここで上昇流が生じて対流性の積雲や乱層雲が発生し、雨を降らせる。活発な梅雨前線では積雲が発達して積乱雲となることもあるが、
梅雨前線が活発になるとき、収束が強まり地上1500m付近の下層に強風域が形成されている。
10000m以上の上層に現れる亜熱帯ジェット気流や寒帯前線ジェット気流に対して、この下層の強風域は下層ジェットと呼ばれている。
また太平洋高気圧が強まり日本付近に大きく張り出してくる時期であるが、高気圧周辺の風が運んでくる暖湿な空気の流入が下層ジェットと合流すると、
そこが強い収束帯となる。高気圧も前線も停滞状態であるために収束は持続する。気温が高いことから空気中に含まれる水蒸気量は格段に多く、
この収束帯の暖湿な気流は「湿舌」とよばれている。さらに梅雨期には台風が接近してくることがあり、台風が引き込む暖湿な気流がここに流入してくると湿舌はますます強まる。
なお、空気中の含有水蒸気量と温度の関係は、次表のように温度が高くなればなるほど含有可能な水蒸気量が格段に増える。
飽和混合比の表(乾燥空気1sに対する飽和水蒸気量g)
気 温(℃) 0 5 10 15 20 25 28 31 34 36
飽和水蒸気量(g) 3.9 5.5 8 11 15 20 25 30 35 40
湿舌による収束帯では、収束帯の先端部に発生した積乱雲は下層ジェットにより風下側に流されながら1サイクルを終えて衰弱するが、
強い上昇流が持続し多量の水蒸気が供給され続けている場になっているため、もとの場所に積乱雲が次々と発生し、風下側でもどんどん積乱雲が発生する。
積乱雲が線状に連なって発生しては衰弱していくことを繰り返し、個々の積乱雲が線状の積乱雲群を形成して強雨を降らせ続ける。
この線状降水帯で豪雨となって災害をもたらすことになるのであるが、線状降雨帯は何時間も続くことがあり、条件によっては1日以上持続することもある。
雨の降り始めからの雨量が1、2日の間に800ミリ、1000ミリという大雨になることがある。
最近の気象衛星の観測や気象レーダーの観測の技術進歩によって、この線状降水帯が実に良く捉えられるようになった。
インターネットに気象庁の各種観測データが公開されているので、特に動画でデータを見てみると、
湿舌の先端部分に積乱雲が黙々と沸き起こって風下側にも積乱雲群が形成されている状況や、その部分に強雨域が停滞している状況が現れているのが良く分かる。
まとめ
温暖化が気象変動に影響していることはまず間違いないことだろうが、最近の激しい気象現象がなぜ起こるかと考えたところで、
相手が自然であるだけにこれを食い止めることは不可能である。肝心なことは、自然の営みを理解して逆らわずに謙虚に自然を受け入れて対応していくしか災害を防止する方法はない。
大雨が降っても大丈夫なように浸水害や土砂災害に対する対策を十分に講じること、大雨が予想されるときは気象情報を自分の都合に合わせて評価せずに、
災害から身を守るために何をすべきかと真摯に考えて行動するというふうに、私たちの生活を自然に合わせていかなければならないと思う。