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大野地球科学研究会は化石やお天気または星が好きな仲間が造った同好会です。

SINCE:  2001年1月1日

UPDATE: 2019年5月25日


 雲を見ていると思わぬ形や色合いに魅せられることがよくあります。雲が虹色に輝く彩雲、沈む夕日がまるで光の柱のように見える太陽柱、 時には赤い夕陽の上縁が緑色に輝くグリーンフラッシュという現象も見られることがあります。 でも私たち地球科学研究会の者としてはこれらの現象に見とれているだけでは物足りないので、そこにどんな気象の科学があるのか確かめてみましょう。

大気中の物質と光の性質

 大気の成分は、窒素分子と酸素分子のほか微量の気体分子などです。これらの物質は目に見えませんが、光にとっては抵抗であり光を吸収・ 反射する現象が現れます。さらに、大気中にはエーロゾルとよばれる微粒子が多量に存在し、 微粒子の大きさや性質によって雲の成因や降水に大きく影響しています。
 太陽光の可視光部分の波長は0.38um〜0.77umですが、大気成分の気体分子の大きさは0.3nmというはるかに小さく(3桁小さい)、 この大きさの違いによって光の散乱がおきます。この散乱は散乱断面積が波長の4乗に反比例するという性質のレイリー散乱といいます。 レイリー散乱では波長が短いほど散乱光の強度が強くなります。青い光は赤い光より9倍程度強く散乱されます。 空が青く見えるのはこのレイリー散乱によるものです。日の出、日の入り頃は、見かけ上、太陽光が大気層の中を長い距離進むことになるため、 青い光がほとんど散乱してしまって赤い光しか届かないことになるため、日光が赤くなり、赤い日光がエーロゾルや雲に反射して空が赤くなるのです。
 気体分子よりも大きく太陽光の波長と同程度くらいからそれよりも大きい粒径のエーロゾルの微粒子に対しては、 波長の長短による散乱強度の差がなくなってきて、どの波長の光も同程度の散乱になります。それで可視光の散乱効果よりも回折作用が大きくなって、 全波長帯の太陽光が側方への散乱より前方への指向性が強くなることから、全体として白色光となって見えるようになるのです。 これをミー散乱とよびますが、雲が白く見えるのはミー散乱によるものです。

雲の成因と滞留高度

 ところで、大気中のエーロゾルはいったいどのくらい存在しているのでしょうか。エーロゾルとは大気中浮遊微粒子で、微水滴のほか塵や煤煙粒子、 排気ガス中の化学物質や火山噴出物など多種多様の微粒子をいい、その大きさは0.001umから10umくらいのものをいいます。 大きく重いものはいずれ落下してくることになるので大気の下層ほど数が多く、上層は成層圏にまで及んでおり、何年もの間滞留していることもあります。 このように大気中には常にエーロゾルがあるので、エーロゾルが核となって雲粒子となり、雲粒子が成長して降水となるのです。 人間の活動から海上では少なく陸上に多いのですが、陸上の雲粒子数は1立方メートルあたり10の9乗個といわれています。
 雲は、水蒸気が凝結して水滴となり、あるいは氷晶となって大気中に浮遊している微粒子の集まりです。 地上または海上の水が蒸発して水蒸気となり大気中に供給されると、気流の上昇により断熱的に降温し、過飽和状態になってから凝結し微水滴になります。 でも、過飽和状態になるだけでは凝結できません。海上の海塩粒子、人間活動起源の硫酸塩や硝酸塩など吸湿性のエーロゾルが凝結核となってようやく微水滴になります。 この微水滴が成長して雲粒子となり、さらに大きく成長して雨となって降ってくるのです。
 ところで、微水滴は、上昇して氷点下に降温してもすぐに凍ることはなく、過冷却水滴となって−40℃くらいでようやく自発凍結できるのです。 また、氷点下の上層では、非吸湿性のエーロゾルが核となり水蒸気が昇華して氷晶ができます。そして過冷却水滴と氷晶が混在することになると、 氷と水の性質の違い(氷面の方が水面より飽和水蒸気圧が低い)から、水滴の表面から蒸発した水蒸気が氷晶へ移動して氷晶が成長する過程が急激に進行していきます。 また氷晶に微水滴が衝突すれば直ちに併合して大きな氷晶に成長します。それで、通常降ってくる雨は、 上層で氷晶が成長して雪、あるいは霰や雹に成長し重くなって落下してくる途中で昇温による融解により雨になるという経過をたどっています。 ですから上層の巻雲、巻積雲や巻層雲の雲粒は微水滴ではなく氷晶なのです。
 なお、巻雲、巻積雲、巻層雲は5000mより高い上層にあるので上層雲と分類されています。上層雲の下では、2000mから7000mの高さにある高層雲、高積雲、 乱層雲の中層雲、2000m以下にある層雲、層積雲が低層雲としてそれぞれ分類されています。

彩雲

2019年4月28日 林治彦氏撮影

 彩雲とは巻積雲や高積雲の辺縁部が虹色に彩られて見える現象の雲のことをいいます。 巻積雲や高積雲の雲粒子は、均質な大きさではないですが10umくらいの氷の粒子なので、この程度の大きさの氷晶粒子に太陽光が当たると回折や干渉の作用が働きます。 回折は波長特有の回折角により太陽光が波長ごとに分光してスペクトルになります。そして干渉により各色の強弱が現れ、これらの作用が競合し、 雲全体として虹色など彩色光が見えるようになるのです。この彩色光は淡いので、太陽を正面に見る位置では直進してくる光が強すぎて白色光にしか見えません。 でもある程度の視角で太陽を見る位置の雲では、白色の散乱光が弱まるので彩色光が良く見えるようになるわけです。同じく氷晶でできている巻雲では、 積雲状態の雲に対して氷晶密度が小さいことから淡い彩色光は見えにくいのです。層状に広がる巻層雲では、辺縁部がないので彩色光は見られません。 なお、下層の積雲や積乱雲にも辺縁部がありますが彩雲としては見ることができません。巻積雲や高積雲よりも雲粒が大きく雲流密度も大きいこと、 高度が低いので太陽の視角が適当でないことなどから彩雲状態にならないのです。

太陽柱

2019年5月14日 金盛繁夫氏撮影

 太陽柱とは、日没や日の出時に地平線に対して垂直方向に太陽からの光が柱状に見える現象をいいます。上空に浮遊するエーロゾル、とりわけ氷晶による光学現象です。 太陽を直視する状態のとき、その太陽方向の気層中の氷晶の分布状況をみると、見かけ上、太陽光が進行してくる気層の距離は、水平線方向が一番長く、 上層へ行くにつれて短くなります。そのため、氷晶の量は水平線方向が一番多く上層へ行くほど少なくなり、 氷晶による回折・干渉作用の効果は下層ほど強まるので下層ほど彩色光が強化されます。ただ水平線方向では、下層ほど量が増える大量の氷晶以外の不純物、 つまり浮遊エーロゾルのため彩色光が散乱されてしまって弱まるので、彩色光はある程度の高度で極大となります。 そして上層ほど氷晶の純度が増すので乱反射が減り、上方の氷晶の量が少ない状態になっても彩色光が良く見えるので、太陽の形が上方に伸びた状態に見えるのです。 また強い太陽光を直視する状態でも、水平線方向では、下層のエーロゾルによって太陽光が格段に弱まるので、太陽光が強すぎる時には見えにくかった彩色光が見えるようになります。 ただ巻積雲のように氷晶密度が大きすぎては彩色光が見えません。巻雲が薄く広がっている状態が頃合なのです。 側方散乱により光が広がって太陽の形がぼやけることがない程度に散乱要素のエーロゾルが少ないことも柱状に見えるための条件になります。 太陽柱は極めて稀にしか見られませんが、それだけにその出現条件は全く微妙なものなのです。
 なお、月の光でも太陽柱と同様の現象が見られることがあり、月光柱とよばれています。イカ釣り漁船の漁火でも同様の現象が見られます。

虹や暈など

 虹や暈の大気光学現象は良く知られています。いずれも雨粒や雲粒、氷晶によって光の屈折、回折、干渉の作用が絶妙のバランスで働くことによって私たちの目を楽しませてくれます。 夕日がまさに沈み込む頃、赤い太陽の上縁が緑色に輝くグリーンフラッシュという現象がありますが、めったに見られません。 虹や暈については専門書に発光現象の明確な解説がなされていますが、彩雲や太陽柱、グリーンフラッシュなど珍しい発光現象については明確な解説が見当たりません。 これらの現象についてはまだまだ科学的に完全に理解できていないということなのでしょう。自然というものは誠に奥深いもので興味が深まるばかりです。


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