本文へスキップ

大野地球科学研究会は化石やお天気または星が好きな仲間が造った同好会です。

SINCE:  2001年1月1日

UPDATE: 2021年6月23日


これからの気象に注意!

 今年(2021年)の正月明けの大雪には皆さんもびっくりされたことでしょう。全般的な予想では大雪という話題はなかったし、 むしろ暖冬で降雪量は少ない傾向が続いていることから、今年のように一気にたくさん降って積もるという現象には大変困惑させられます。 また最近よく大雨だ大雪だ猛暑だなどと何かしら気象現象の激しさを感じるのですが、こんな激しい現象をもたらすメカニズムはどうなって いるのかとても気になるところです。
気象に注意1

雪が降るメカニズム

 雪が降るのも雨が降るのも原理は同じです。地表付近で温まった空気は軽くなって上昇します。 空気中の水蒸気は上昇して水滴となり雲ができます。上空の高い所−10℃以下というような低温層では水蒸気が氷晶となって氷晶による雲ができます。 暖気が上昇して雲ができるという対流現象が強くなると雲が発達し、上層の何1000mという高度の−20℃とか−30℃という低温層にまで上昇すると、 氷晶が更に多くの水蒸気の補給を受けて大きく成長します。大きく成長した氷晶というのは雪であり、更に激しい対流現象では霰や雹になります。 こうして大きくなった氷晶が下層へ落下してくるわけですが、落してくるとき下層が0℃以上であれば融けて雨になり、 融けなければ雪となって地表に達するのです。日本の場合、冬の気温が地表でも0℃に近い低温ですから雪の状態で降ってきますが、 夏には雨となって降ってきます。霰や雹が解けきらなければ霰や雹として降ってくるのです。

激しい降雪

 冬季の日本海は海面水温が意外と高く、南北での差はありますが10数℃もあります。ここに寒気が流れ込むと大雪になるのです。 上空5000mで−30℃というような寒気のとき、雲が発達する高さの1500m付近では−10℃前後、地表付近でも0℃近くになりますから、 これに対して海面水温がいかに高いかということで、暖かい海面で下層の空気が温められて対流現象が激しくなります。 それとともに大量の水蒸気が補給されて上層で多量の氷晶が大きく成長し、雪となって落ちてくるから大雪となるわけです。
 空気中に含まれる水蒸気量については温度ごとに飽和水蒸気量が決まっており、気温が低いとごくわずかですが気温が高くなるにつれ格段に増えます。

     乾燥空気1kg(1気圧で約1立方m)に対する飽和水蒸気量

  -10℃  0℃  5℃  10℃  15℃  20℃  28℃  31℃
  1.8g  3.9g  5.5g  8g  11g  15g  25g  30g

 高い海面水温で海面近くの空気が温められて上昇するとともに、飽和水蒸気量も増加するので海面から水蒸気がどんどん補給されていき、 寒気との気温差により激しい対流現象が起きるという具合です。
 ここまでは一般的な話ですが、最近、大雨の場合もそうですが、雪の降り方も限られた地域で短時間にドカーッと降るということが多くなっています。 これは温暖化現象によるのでしょうか。世界各地で様々な異常な気象現象が起きているのは事実ですが、 どんな現象が今年の大雪にどのように結びついているのかという明確な答えはまだ見つかっていません。 しかし一つ挙げれば気象現象を左右する大きな要素である偏西風の流れが今までとは変わってきていることです。

偏西風に異変

 地球の自転の影響で北極を中心に上層で強い西風が年間を通じて吹いているのが偏西風(寒帯前線ジェット気流)であり、 偏西風が高気圧や低気圧の盛衰や移動にかかわっています(なお梅雨に大きく影響する中緯度域の亜熱帯ジェット気流という偏西風もあります)。 偏西風は自転や地形の影響で極域を一周する間に数か所で蛇行しており、その蛇行の型が季節ごとにだいたい決まっているため通常の気象変化が予測できるのです。 蛇行して偏西風が北側から日本付近に向いてくると極域の寒気が偏西風によって日本上空に流れ込んできます。 反対にその蛇行が南側から日本付近に向いてくると暖気が流れ込みます。この蛇行の型が乱れて、冬に夏のような暖気が入り込み、 夏に冬並みの寒気が流れ込むという現象が起きます。そして日本上空で寒暖差が大きくなって大気が非常に不安定になり、 激しい対流現象が起きて大雪や大雨が降ることにつながってきます。蛇行部分が日本付近から離れておれば大気の流れは安定して穏やかな天気現象になるという具合です。
 ところで、最近の北極海では氷の領域が極端に減少してきており、夏季では面積の3割ほどしか氷がないこともあり、 北極海航路が開設されているほどで、ベーリング海峡付近の氷がなくなって大西洋と北極海と太平洋の間で海水の流れが完全につながっているのです。
 資料の表は、北極域の海氷面積の経年変化を表したものです。年平均値が下降しているのが分かりますが、年最小値の下降度合いが大きいことが特徴的です。 資料の地図は、北極域の海氷の状況を表したものです。北極域では冬季はほぼ全面結氷し、夏季には氷が融けて海水面が広がり海氷面積は毎年9月初めに最小となります。 水の比熱が大きいため気温変化から大きく遅れて海水面温度が変化するため、冬に近付いた9月に海氷面積が最小になるわけです。

     北極域の海氷面積の経年変化(1979年〜2020年)気象庁資料

気象に注意2

     北極域の海氷の状況(2020年9月10日)気象庁資料

気象に注意3

 北極域の海氷が融けて海水面が広がれば水面温度も上昇するのですが、温まった海水面は水の比熱が大きいことから9月になってもなお北極域の空気を温め続けることになるわけです。 夏季に海氷面積が大幅に減少することは極域の気温変化に与える影響は増幅されて現れます。つまり、これまでの夏季の気温変化では融けなかった永久凍土が融けて地温が上がり、 大地に植物が茂るようになった面積が極端に増えています。地温が上がれば地表付近の気温も上昇し、対流現象が強化されて極域の気象パターンが変わるという現象や、 氷の減少や残存氷の位置の変化によって寒冷な空気の滞留場所が変化し、冬に入っても放射冷却が進まず地表付近の冷気が蓄積されて優勢な高気圧になるというパターンが崩れるなどダイナミックな環境変化が起きているのです。 その影響でパターン化していた偏西風の型も乱れてくるのです。
 この偏西風の変化はどのような因果関係で偏西風の強さや蛇行の移動が変化するのかその具体的なメカニズムはまだ未解明です。 でも幅広い世界各地での観測やスーパーコンピュータの活用など科学の力で数日間程度の偏西風の強さや蛇行の変化状況については予測可能になったことから、 その範囲での天気予報精度が上がってきています。とはいっても局地的な現象の予報にはまだ限界があり、昨今の集中豪雨や大雪などについて予報精度が不足しているのも事実です。

まとめ

 温暖化が気候変動に影響していることは事実として、激しい気象現象が起こる原因を知ったところで、相手は自然ですからこれを食い止めることは不可能です。 ですから私たちは、自然の営みを理解して逆らわずに謙虚に自然を受け入れて対応していくしか災害を防止する方法はないということを心得ていなければならないのです。 最近の暖冬に慣れていたからでしょうが、どれだけの人が56豪雪や3年前の大雪のような降雪を予想し冬支度をしていたでしょうか。
 また大雨についても言えることですが、いつ降っても大丈夫なように浸水害や土砂災害に対する対策を十分に講じておくことが肝要です。 大雨が予想されるときは気象情報を自分の都合に合わせて評価せず、災害から身を守るために何をすべきかよく考えて行動するというふうに、 私たちの生活を自然に対して謙虚に合わせていかなければならないと思います。 今年5月に防災気象情報と警戒レベルとの対応についての改正法が施工され、警戒レベルが5になる前のレベル4段階で全員避難すべきこととなりましたが、 改めて自然に向き合う姿勢を意識していきましょう。


このページの先頭へ