本文へスキップ

大野地球科学研究会は化石やお天気または星が好きな仲間が造った同好会です。

SINCE:  2001年1月1日

UPDATE: 2022年2月10日


 冬の北陸は大雪だといってもさほど驚くことはないが、今年(2022年)2月5日に米原市で記録的大雪が観測され、札幌でも大雪と言われた。 米原では平年の降雪量が少なくあまり雪対応ができていないところに大雪が降り大混乱となった。 雪に慣れているはずの札幌ではJRが全面ストップするという事態になった。最近は全国どこでも激しい気象現象が観測されており、 このたびの大雪もどんな気象現象になっているのか気になって各地の観測データなどを基に比較してみることとした。
 米原市では、2月5日に米原Aのように一日の降雪量が観測記録1位になり、翌2月6には米原@のように2位の記録となったので、 2月6日について米原市と札幌市や大野市の各観測データを比較してみる。

どこでも大雪1

 降雪量は1時間ごとの積雪の深さの差の積算値として求めており、降水量は降った雪をいったん融かし水の量として計測している。 雪水比は、降雪量に対する降水量の比で水気が多いか少ないかの目安になる値であり、気温が低いときのサラサラの雪は値が1を超えて大きくなり、 気温が高いと0に近くなる。
 2月6日の札幌@、大野@、米原@を比べると、札幌の雪水比が一番大きく、大野、米原の順に小さくなっており、 平均気温の順に対応して気温が低いほど雪水比の値が大きい。札幌Aは1日の降雪量が1位の記録、札幌Bは2位の記録であるが、 高緯度にあり大雪が降るときは相当気温が低く、−7.3℃という札幌Bの気温は普通である。むしろ札幌Aの0.5℃は異常に高く、 雪水比1.1は米原@の値とほぼ同じで、札幌としてはずいぶん湿った雪だったことから、 その大雪が市民生活に与えた影響は災害級であったことがうかがえる。
 大野Aは56豪雪のときであり、雪水比0.6は相当低い値であり、降雪量が非常に多かったこともあって、湿った重い雪の影響で多くの建物が倒壊し、 植林杉の折損被害が甚大であった。気温0℃前後のときに降る雪は着雪しやすいことから着雪注意報が出されることがある。 平成30年の大野Bの大雪ではかなり気温が低かったので雪水比の値が大きく、比較的サラサラ感がある雪だったことから折損被害はあまり見かけなかった。
 米原Aは1日の降雪量が1位の記録であるが、1日の降雪量53pともなれば大野でも大変であるから、米原市民はさぞかし大変であったであろう。
 なお東京のデータは私が体験した大雪のときであり、当時住んでいた新宿で一晩に約20pの降雪があり、 満開の桜の木がボキボキ折れるのを見た強烈な印象がある。

 さて、今年はなぜ米原で記録的大雪になったのであろうか。最近、気象用語のJPCZ:日本海寒帯気団収束帯のことを聞くことが多いが、 これがちょうど米原方向の日本海側沿岸地域にかかっていたことが大雪の原因として挙げられる。冬季のシベリアからの寒気南下は、 放射冷却によって地表付近に溜まった寒気が季節風となり日本列島目がけて流れ出てくるが、地表付近から上層に向けて気層が安定している状況下にあるため低層を流れてくる。 そして大陸を離れるころ、そこに最高峰2744mの白頭山など2000m級の山岳地があり、寒気の流れはこの標高よりずっと下層にあるため、 白頭山付近の山岳地によって分流し日本海上で合流するという現象が起きる。 流れてくる方向が異なる寒気の合流により対流雲が発達する収束帯が形成されるのがJPCZである。 通常の筋雲を形成する積雲よりはるかに大規模な積雲群となって日本に迫ってくるのだが、風向・風速が微妙に変化する影響でJPCZが向かう先は安定せず、 積雲群の幅や雲の密度も変化し、その動きはなかなか正確には予想できない。しかしJPCZからの発達した積雲が流れ込む地域では、 日本海からの水蒸気の供給を受けて多量の雪が作られ、これが風に乗って降ってくるわけである。 今回の大雪はJPCZが米原の方向に積雲を流し込んでいたという状況であった。なお雪の自由落下速度は50p/s程度であり、 地表に降ってくる雪は1時間余りも前に日本海の沿岸付近上空で成長し重くなった雪が落下てくるものであって降雪地の上空でできたというものではない。

 ところで普段降雪量が少ない地域で大雪になることが頻発する最近の傾向はなぜだろうか。 雪に限らず雨にしても時間雨量100oを超える猛烈な雨という用語は聞き慣れた感があるが、明らかに降水現象が激しくなってきている。 世界的に言われている地球温暖化の影響としか説明がつかないであろう。温暖化の指標として気温の上昇が挙げられるが、 これまでの100年単位では上昇率が1℃に至っていない。しかしここで海水温が着実に上がっていることを見過ごしてはならない。 水は空気よりはるかに比熱が大きいので、海水温の上昇率が小さくても温まった海水が蓄積している増加分の熱量は膨大である。 特に北極海の氷結面積の縮小やシベリアなど北極地域の氷床や凍土の減少に伴って北極周辺の海水温が上昇している。 最近ではこのことに世界が注目しているが、まだ研究初期段階であり詳細なことは分かっていない。 でも北太平洋の海水温が異常に高いことや日本海の水温も高くなっていることなどが観測されている現況に鑑みると、 これら北極周辺地域での熱量増加の影響が大気循環に異常をきたし、日本の気候にも作用して激しい降水現象を誘発している可能性が大きいと言わざるを得ない。

まとめ

日本で降る雨は、上空で成長した雪や霰が落下途中で気温が0℃以上の層で融けて地上に降ってくるものであり、降水現象が雪になるか雨になるかは下層の気温次第である。 雨ならすぐに流下していきその場からなくなるが、雪はその場にしつこく残るという大きな違いがある。雪は雨より体積がはるかに大きく、 いったん雪となり地表に積もると、太陽光反射や冷気保温の効果から気温や地温が上がりにくくなり、降水量として同値でも生活への影響は雨よりもずっと大きい。 降るものは止められないので雪の実態を直視し、慣れ不慣れを問わずに着実に雪対策をしなければならないのである。 そして今後どんな地域でもますます大雨や大雪の現象が増えるはずで、それに備えて十分な対応をしていかなければならない。


このページの先頭へ